軒の深い焼杉の平屋

「やっぱり、小島さんのところで建てたいです。」
それは、思いがけない再会の始まりでした。
今から3年ほど前、Yさまが初めて当社にいらっしゃいました。
若さと持ち前の情報収集力で、家づくりについて熱心に学ばれていたのが印象的だったYさま。
他の工務店さんやビルダーさんとも比較しながら、「どんな家にしたいのか」「素材によって性能はどう違うのか」と、真剣に理想の住まいを模索されている印象でした。
しかし、私たちは少数精鋭で、1棟ずつ魂を込めて家を建てる工務店。
だからこそ「すぐには建てられない」という弱点があり、それが決め手となり、Yさまは別の住宅会社さんに依頼されることになりました。
「良いご縁になればいいな」と思いつつも、少し寂しさが残ったのを覚えています。
ところが、それから半年後——。
「やっぱり、小島さんのところで建てたいです。」
Yさまからの電話に、従業員皆の胸が高鳴り、もう一度お会いできることが嬉しくて、わくわくしたのを今でも覚えています。
それは、家づくりを超えた”ご縁”が再びつながった瞬間でした。
【概要】
茨城県つくば市
33坪(3LDK・平屋)
オール電化
長期優良住宅
焼杉を自分たちで作る。
お打ち合わせを行った当初から外壁は焼杉を希望されており、「自分で焼杉を作りたい」というYさまのご希望もありいっしょに焼杉を2日間かけて製作しました。
※消防に許可を得て作業を行っています。
通常は焼き終えた杉板を磨くのですが、ふわふわとした炭の部分を残しておきたいという施主様のご希望で焼きっぱなしで自然乾燥させました。
焼杉の起源は江戸時代にさかのぼり、瀬戸内地方の海に面した地域の塩害を防ぐため倉庫などの外壁として使用されていました。
そこから全国的に広がりをみせ、現在では工業製品などの廃棄などに繋がらないサステナブルな外壁として世界的にも注目を浴びています。
焼杉を外壁に使うメリットは、
・炭色の絶妙な色合いと風合いが、木をたっぷりと使用した内装の家との相性が良い。
・炭化層が木材を保護し、腐食や虫害に強い。
・炭化しているためメンテナンスを抑えることができる。
・経年変化で将来「味わい深い佇まいの家」になる。
これから先暮らしていく家が、暮らす人とともに味わいを増し変化していく楽しみ。
その事を感じて頂ける家に仕上がったと思います。
自然素材が織りなす家の顔。
軒の深さは1.2m。
夏は日差しを遮り、冬は陽が差し込みます。昔ながらの自然を活かす設計です。
軒天の檜と焼杉のコントラストが美しいです。
樋は鎖樋を正面にのみ採用し、雨の日が待ち遠しくなるアクセントをプラスしました。
陶器の鎖樋は、金属製よりも雨音が静かで、樹脂製よりも耐久性が良く酸性雨にも強いメリットがあります。
また、高級感もあり訪れる方の印象にも残りやすいですね。
玄関ポーチは、ぐっと建物の中に引き込むことで建物全体のバランスが良く、平屋をより美しく感じさせてくれます。
家の顔でもあるこちらのスペースには、栃木県産の大谷石を壁面に、洗い出し仕上げの床でより自然素材の風合いを加えました。
洗い出しにすることで凹凸ができ雨の日でも滑りにくく、汚れも目立ちにくいためメンテナンスがとても楽です。
玄関ベンチを中に設置して、どの年代の方でも靴の着脱がしやすい利便性とおもてなし感が広がります。
シューズクロークは、扉を浮かせて設置し、土間も洗い出し仕上げなのでお掃除がスムーズです。
玄関ベンチに添えたのは北山杉の丸太。ポール手摺りとしても使いやすく、senのブラケットを優しく引き立てます。
一年中快適なリビング。
リビングは、檜板張りの勾配天井は開放感を感じられ、オーク材を使い落ち着きのある雰囲気です。
リビングから廊下に繋がる扉は、造作の格子戸で和の要素をプラスしました。
横の収納には、書類や生活雑貨などをたっぷりと収納できます。
窓ガラスは、LIXILのEW複層ガラス(日射取得Low-Eクリア)を採用しました。
冬の日射で部屋を暖めるために日射取得タイプにしています。
そのため、夏は深い軒の効果で日射は入りにくいため快適に過ごせます。
その他部屋の窓ガラスは、LIXILのEW複層ガラス(高遮熱仕様Low-Eグリーン)を採用し、室内の温度を逃がしずらい効果を発揮し冬は暖かく過ごせます。窓枠をタモ材にして他の木材と調和します。
また、気密検査ではC値0.28。家の隙間をとても小さく抑えて快適な空気が漏れることを防ぎ、冷暖房の効率をアップしてくれます。
空調はダクト式第三種換気ルフロを採用し、カビの原因となる結露を防ぎます。また、メンテナンスも容易な点で採用しました。
空間を優しく仕切るアーチ垂れ壁を通ると、水廻りとウォークインクローゼットに繋がります。
家の中心に大きく収納を設けて個室に収納を控え、スペースにゆとりを持たせました。
杉材を使用した造作洗面台はフラットで大きなミラーを採用し家族横並びでも使えます。
洗面所から脱衣所兼家事室へ。
画像にはありませんが、洗濯物干しポールを設置して、洗濯してたたみ収納までこちらで完結します。
外観の落ち着きに加え、家の中は生活導線を重視し暮らしやすさあふれる仕上がりとなりました。
家が完成し、お引渡しの日。
Yさまは、随分父親の顔になっていました。
初めてお会いしたときの、未来と真剣に向き合う青年の姿は、より力強く、落ち着いたものへと変わっていました。
腕の中には、穏やかに眠る小さな命。その寝息が、新しい家の空間に優しく溶け込んでいるようでした。
「この家で、たくさんの思い出を作っていきたいです。」
玄関を開ければ、子どもが元気に駆け出す姿が目に浮かび、 リビングには家族の笑い声が満ち溢れ、寝室では小さな寝息が重なり静かな夜がやってくる。
この家が、Yさまのご家族にとって、かけがえのない場所になっていくと願いながら、お引渡し記念の家族写真を撮らせて頂きました。